
DIYや家具の組み立てで「どのくらいの力で締めればいいのだろう?」と悩んだ経験はありませんか。ボルトを締めすぎると部品が壊れたり、緩すぎるとガタつきの原因になったりと、なかなか難しいものです。
そんなときに役立つのが、トルクレンチという工具です。トルクレンチを使えば、ボルトやねじを締めるときの力加減を数値で確認しながら作業できます。 この記事では、トルクレンチの基本的な使い方から保管方法まで、実践的なポイントを詳しく解説します。トルクレンチを使いこなして、より確実な組立・メンテナンスを行いましょう。
目次
トルクレンチの正しい使い方とは
トルクレンチは「どのくらいの力で締めているか」を正確に測る工具です。しかし、誤った使い方をするとトルクレンチ自体の精度が狂ってしまい、正確な測定ができなくなってしまいます。ここでは、トルクレンチを正しく使用するためのポイントを解説していきます。
正しい力点を理解する
トルクレンチを正確に使用するためには、力を加える位置(力点)を正しく理解することが大切です。多くのトルクレンチでは、グリップの中央部分に力点が設定されています。
製品によっては、握る位置を示すマークやラインが付いているものもあるため、作業前に確認しましょう。マークがある位置に中指を合わせて持つことで、適切な力を加えることが可能です。 力点から外れた位置で力を加えると、設定したトルク値と実際の締め付け力に誤差が生じてしまいます。そのため、作業前には必ずグリップ上の力点表示を確認し、位置を意識しながら作業を進めましょう。
力の入れ過ぎに注意する
トルクレンチを使用するうえで最も注意すべき点は、力を入れ過ぎないことです。トルクレンチは、設定値に達した後も、力がそのまま部品に伝わってしまいます。そのため、適切な力加減を意識することが大切です。
とくに、プリセット型トルクレンチでは、設定値に達すると「カチッ」という音と振動で知らせてくれます。この合図が聞こえたら、すぐに作業を終了しましょう。必要以上の締め付け(オーバートルク)は、ボルトやナット、さらには取り付ける部品そのものを傷める原因となります。 確認が必要な場合は、さらに締め付けるのではなく、一度緩めてから再度トルクレンチで締め直しましょう。
回る向きを確認する
トルクレンチには、使用するときの回転方向に決まりがあります。一般的な締め付け用のトルクレンチは、右回り(時計回り)での使用を前提に設計されています。 誤って本来の向きとは逆方向に力を加えてしまうと、トルクレンチ内部の機構に負担がかかり、測定精度の低下を招く可能性があります。トルクレンチの性能を維持し、正確な測定を継続するためにも、必ず指定された方向で使用するようにしましょう。
ソケットを取り付けて使用する
ほとんどのトルクレンチは、本体だけでは締め付け作業を行えないため、ソケットを装着する必要があります。トルクレンチのヘッド部分には、角ドライブと呼ばれる取り付け部があり、この部分にソケットを装着することで使用できます。サイズの異なる複数のソケットを用意することで、さまざまなボルトを締めることが可能です。使用する際は角ドライブの根元までしっかりとソケットを差し込み、がたつきがないことを確認してください。正しく装着されていないと正確に測定ができないため、注意しましょう。
トルクレンチの種類

トルクレンチには、使用する目的や作業する環境に応じて種類を選択できます。主な種類として、直読式・プレセット型・デジタル型の3つに分けられます。ここからは、各タイプの特徴と使用方法について見ていきましょう。
直読式
直読式トルクレンチは、作業中のトルク値を目盛で直接確認できるタイプです。目盛りに示された数値を見ながら作業を進められるため、リアルタイムで締め付け具合を把握することができます。 作業者は目標値に向かって、徐々に力を加えながら締め付けを進められる点がメリットです。直読式にはプレート型とダイヤル型があるため、作業環境や用途に応じて選択しましょう。
プレート型(ビーム型)
プレート型(ビーム型)のトルクレンチは、シンプルながら信頼性の高い構造が特徴です。本体の梁(ビーム)部分が力を加えることでたわみ、そのたわみ具合によってトルク値を示す仕組みとなっています。
構造がシンプルなため、ほかのタイプと比べて製造コストが抑えられることから、比較的安価[1] で入手できます。また、シンプルな構造のため耐久性が高く、長期間の使用に耐えられる点も大きな魅力です。
ただし、プレート型(ビーム型)のトルクレンチには注意点もあります。まずは正確に測定するためにはグリップの力点の位置を合わせなければならず、この操作に慣れるまでは少し時間がかかります。
また、目盛りの読み取りは必ず正面から行う必要があり、作業位置によってはひとりでの測定が難しい場合もあります。そのような場合は、目盛りを読み取る補助者が必要です。作業員が少ない現場では、別のタイプを検討したほうがよいでしょう。使用前には必ず取扱説明書を確認し、正しい持ち方と測定方法を理解しておくことで、より正確に測定できます。
ダイヤル型
ダイヤル型のトルクレンチは、時計のような円形の目盛りで測定値を表示するタイプです。トルクレンチ本体のねじれ具合をダイヤル上の針の動きとして表示することで、誰でも簡単に値を読み取れます。
最も便利な機能が、最大値を記録できる「置き針」のシステムです。通常の時計でいう秒針のような針が、締め付け作業中に記録された最大値の位置に留まり続けます。
作業後も「置き針」が最大値の場所にあるため、慌てて数値を確認する必要がなく、より正確に記録できます。また、測定時の読み間違いも防げるため、確実な品質管理を実現できるでしょう。
ただし、このような高機能な構造を持つため、本体は比較的大きく重量もあります。使用の際は重量感があることを考慮して、安定した姿勢で作業を行うことが重要です。 また、精密な構造であるため、前述のプレート型と比べると価格は高めとなります。日常的な使用頻度や作業内容、予算などを考慮して、用途に合ったタイプを選択しましょう。
プレセット型(シグナル式)
プレセット型(シグナル式)のトルクレンチは、あらかじめ目標とするトルク値を設定できるタイプです。
設定値に達すると音や振動で作業者に知らせてくれるため、目盛りを確認する必要がありません。通知の方法は製品によって異なり、手に振動が伝わるタイプや「カチッ」という音が鳴るタイプなどがあります。
プレセット型(シグナル式)の最大のメリットは、目盛りを見なくても作業できる点です。作業姿勢が悪く目盛りが見づらい場所でも、振動や音で伝えてくれるため、ひとりで作業できます。
また、同じトルク値での締め付けを繰り返し行う場合、一度設定すれば作業を効率的に進められます。そのため、工場の生産ラインなど、同じ条件で連続して作業する現場におすすめです。ただし、使用にあたっては注意点もあります。まず、設定値に達したときの振動や音の感覚に慣れるまで、少し時間が必要です。また、周囲の騒音が大きい環境では通知音が聞こえにくい場合があるため、振動するタイプを選ぶといった環境に合わせた製品を選択することが重要です。
注意点
プレセット型(シグナル式)のトルクレンチを使用する際は、設定値に達したときの合図に注意しなければいけません。設定値に達すると、音と共に手に軽い振動が伝わってきますが、この合図を感じたら即座に締め付けを終了する必要があります。
多くの作業者がもう一度締め付けたくなる心理に駆られますが、これは厳禁です。2回以上合図を感じた場合は、設定値を超えたオーバートルクの状態となっています。これでは、トルクレンチで正確な値を設定した意味がありません。 確実に測定するためには、最初の合図で必ず作業を終了することを徹底しましょう。もし2回以上の合図を感じた場合は、測定をし直しましょう。
デジタル型
デジタル型のトルクレンチは、最新のテクノロジーを駆使した高性能なタイプです。内蔵されたセンサーが締め付けた力を電気信号として検知し、液晶画面に数値を表示します。
これにより、従来の直読式で発生していた読み取り位置による誤差や、シグナル式での作業者によるばらつきといった問題点を解決できるのが魅力です。
さらに、目標値に達すると通知してくれる機能も搭載しています。そのため、誰が作業しても一定の品質を保つことが可能です。また、設定値の変更も簡単に行えるため、さまざまなトルク値が必要な現場でも柔軟に対応できます。 最新のデジタル型では、表示部を本体から分離できるモデルや、測定データをパソコンに転送できる機能などを備えた製品も登場しています。これにより、作業記録の管理や品質保証のためのデータ収集も簡単に行えるでしょう。
トルクレンチの保管方法
トルクレンチは、使用後の保管方法が製品の寿命と精度に大きく影響します。長く正確に測定を続けるためには、適切な保管が欠かせません。ここからは、トルクレンチを正しく保管するためのポイントを解説していきます。
目標トルクの設定を最低値に戻す
トルクレンチを使用した後は、必ずトルク値を最低値に戻してから保管しましょう。
トルク値を高い数値に設定したままで保管すると、内部のスプリングが常に圧縮された状態となってしまいます。この状態が続くと、スプリングの弾性が徐々に失われ、最終的には正確なトルク値の設定ができなくなってしまう可能性が高いです。 トルクレンチの精度を長期にわたって維持するためにも、使用後は必ずトルク値を最低に設定する習慣をつけましょう。この簡単な作業が、工具の寿命と信頼性を大きく左右します。
専用ケースに入れる
トルクレンチは精密機器のため、環境の影響を受けやすく、温度や湿度の変化、ほこりは大敵です。湿気はとくに注意が必要です。トルクレンチ内部には多くの金属部品が使用されているため、湿気で錆が発生すると測定精度が低下してしまいます。 このような問題を防ぐため、必ず付属の専用ケースに収納して保管しましょう。さらに、ケース内に乾燥剤を入れることで、より確実に湿気から工具を守れます。
点検を怠らない
トルクレンチは正しく使用していても、時間の経過とともに測定精度が徐々に低下していきます。そのため、作業の品質を維持するためには定期的な点検が欠かせません。 点検時にはトルクチェッカーで実際の測定値と設定値の誤差を確認し、トルクレンチの状態を客観的に評価します。点検の結果、精度の低下が見られた場合には、専門業者に修理を依頼しましょう。
振動に注意する
トルクレンチは振動の影響を受けると、内部の精密な機構にずれが生じたり、部品が摩耗したりする可能性があります。このような状態になると、測定精度が低下し、正確な測定ができなくなってしまいます。
そのため、保管場所の選択は慎重に行いましょう。たとえば、自動車のトランクに放置したり、機械の近くなど振動の多い場所で保管したりすることは避けるべきです。 また、壁に立てかけたり高所に置いたりすることも危険です。うっかり落下させてしまった場合は、故障の原因となります。保管の際は専用ケースに入れ、振動の少ない安定した場所に置いておきましょう。
年1回以上は精度確認をする
トルクレンチは精密機器のため、使用頻度に関わらず定期的に精度を確認することが重要です。作業を重ねることで、内部の機構に微細な変化が生じ、測定精度が徐々に低下していく可能性があるため、最低でも年に1回は精度確認を行うことをおすすめします。 定期的な精度確認は、作業の品質と安全性を確保するための重要な保守管理の一環です。きちんと点検を実施することで、トルクレンチの正確性を長期にわたって維持できます。
こちらの記事では、ラチェットレンチの使い方について解説しています。使用する際の注意点も取り上げているため、ぜひあわせてご覧ください。
LEDの寿命とは?使えなくなるサインと長持ちさせるコツ
LED照明の寿命は40,000時間から50,000時間ほどです。1日8時間使用する場合、10年以上使えることになります。本記事では、LEDの特徴や交換時期の目安、メンテナンス方法について解説します。
まとめ
トルクレンチは直読式やプレセット型、デジタル型などさまざまなタイプがあります。そのため、作業内容や環境に応じて最適なものを選択しましょう。また、正確に測定するためには、適切な使用方法と保管方法を理解し、実践することが重要です。
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